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エルヴィス映画見直し Speedway by Elvis Presley(映画『スピードウェイ』より その2)

2010-02-05

曲名
スピードウェイ(Speedway)
アーティスト
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
収録アルバム
『スピードウェイ』サウンドトラック(Speedway OST)
作曲者
メル・グレイザー、スティーヴン・シュラックス(Mel Glazer, Stephen Schlaks)
リリース年
1968年


『スピードウェイ』でのエルヴィス・プレスリーの役柄は、ストック・カー・レースのドライヴァーです。最近はあまり記憶がありませんが、昔はカーレースというのは、ボクシングとならんでよく映画の題材になりました。ポール・ニューマンやらスティーヴ・マクウィーンの顔が浮かんできますし、『グレート・レース』なんていう変わり種もありました。

エルヴィス・プレスリー自身、以前にも『カリフォルニア万才』(Spinout)でカーレーサーに扮したことがあります。『スピードウェイ』が異なるのは、ストック・カー・レースだという点です(「ストックの車」、すなわち、レース・カーではない普通の車という意味。ただし、それはボディーの話で、エンジンは換装する)。

☆ ふたつのテーマ ☆


プロットを書く前に、テーマ曲をお聴きいただきましょう。

エルヴィス・プレスリー「スピードウェイ」 テーマ(盤ヴァージョン、OSTではない)


最初に聴いたときは、ドラムがすごいのでひっくり返りました。エルヴィスも真っ青になる「あおり」で、ドラム・ビートにケツを蹴り上げられて虫の息というヴォーカル・レンディションに思えました。ただし、あとになって、そうなってもやむをえない事情があったのではないかと考えるようになりました。

この盤ヴァージョンを聴いたあとで映画を見ると、コケるとはいわないまでも、「エ? なんだよこれは? ちがうじゃん!」とあわてることになります。以下のクリップは2分間の(あまり面白いとはいえない)アヴァン・タイトル・シークェンスを含みますが、その後にタイトルが出て、テーマが流れます。

エルヴィス・プレスリー「スピードウェイ」 テーマ(映画ヴァージョン)


うーむ。テイクが違うのかと思いましたが、よく聴くとそういうことではなく、(ベーシック・トラックではなく)おそらくエルヴィスのヴォーカルまで含む完成トラック、すなわち盤に収録されたヴァージョンに、ホーンやストリングスをオーヴァーダブしたもののようです。

いや、それだけではありません。編集して、あとから録音されたトラックにつなげているし(フェイド直前に聞こえるドラムは別人のプレイだろう)、どうやら、エルヴィスのヴォーカルにかかったディレイも、たんにオーヴァーダブによる結果(というか、シンクがズレたという事故?)のようです。なんとも変なことをしたものです。

☆ だれがだれやら ☆


よくまあ、こんなにヘンテコリンなオーヴァーダブとエディットをやったものだ、たいした技術力だ、やはりハリウッドのエンジニアは腕がいい、とは思うのですが、トラックとしての出来の善し悪しとなると、やはりホーン抜きのプレイン・ヴァージョンのほうに分があります。

speedway title

Speedwayという曲を最初に聴いたのは、エルヴィスの映画挿入曲を集めた盤でのことでした。聴いた瞬間、ドッヒャー、ハル・ブレインだ! とひっくり返りました。62年ごろからのサントラはほとんどハリウッド録音、ドラムはたいていの場合、ハル・ブレインと考えてよい、という先入観があったからでもありますが、でも、こんなにすごいプレイができるドラマーは、あそこにもいる、ここにもいるというものではないですからね。

ところが、Easy Come, Easy Goとの2オン1になった『スピードウェイ』のOST盤を買って、クレジットを見ると、ドラムはD・J・フォンタナとバディー・ハーマンとされていました。そういってはなんですが、フォンタナでないのはだれにでもわかります。でも、バディー・ハーマンはねえ……。ハル・ブレインのようなド派手なプレイをしたのを聴いたことはありませんが、タイムはいいし、めったに見せないものの、テクニックもあります。

spedway credits

そうかあ、バディー・ハーマンか、と納得したような、そうでもないような、疑問の残る中っ腹な気分でした。Speedwayという曲もハル・ブレイン的イディオムがチラホラしますが、ほかのトラックでは、どこからどう見てもハル・ブレインというプレイが聴けるのです(あとでそのトラックに言及するときにくわしく書く予定)。68年は、ハル・ブレインが叩いた『カムバック・スペシャル』が録音された年なので、これがリファレンスになるのです。

bob moore grady martin buddy harman

☆ やっぱりハル・ブレイン ☆


しかし、あとになって、数カ所のウェブ・サイトで、ドラムはバディー・ハーマンとハル・ブレインとしているのを見ました。だれかひとりのまちがいをみなが孫引きしたというケースもありえますが、もっとも蓋然性が高いのは、「Double Feature」シリーズではない、べつの『スピードウェイ』のOSTには、ハル・ブレインの名前があがっている、ということです。

たとえば、elvispresley.com.auというファン・サイトでは、このアルバムのクレジットは以下のようになっています。

Tiny Timbrell, Donald Owens, Alvin Casey, Tommy Tedesco (guitars), Pete Drake (steel guitar), Bob Moore (bass), Hal Blaine, Buddy Harman (drums), Larry Knechtal, Don Randi, George Cast (pianos), Boots Randolph (sax), Roy Caton, Virgil Evans, Oliver Mitchell (trumpets)

エルヴィスのサントラにはそういうものが散見するのですが、これまた奇妙なメンバーです。ナッシュヴィルとハリウッドの混成部隊、それもほぼ五分五分ぐらいの割合なのです。わたしにわかる範囲でいうと、アルヴィン(普通はアル)・ケイシー、トミー・テデスコ、ハル・ブレイン、ラリー・ネクテル、ドン・ランディー、ロイ・ケイトン、オリヴァー(普通はオリー)・ミッチェルという七人はハリウッドのレギュラーで、AFMのロサンジェルス支部(ローカル47)所属です。

speedway racing

残りは不明の人もいますが、ドナルド・オーウェンズ、ピート・ドレイク、ボブ・ムーア、バディー・ハーマン、ブーツ・ランドルフはナッシュヴィルです。

ここまでイーヴンになっていると、ナッシュヴィルで録音されたトラックが混じっているというだけで、バディー・ハーマンたちがハリウッドに来て(クレジットではカルヴァー・シティーのMGMスタジオで録音となっている。いや、Double Featureのクレジットではハリウッドのユナイティッド・ウェスタンとされているのだが)、ハリウッドのミュージシャンたちにまじって録音したという意味ではないだろう、と考えたくなります。

その可能性もあると思うのですが、いっぽうで、どうやら、エルヴィスの録音のためにナッシュヴィルのプレイヤーがハリウッドに何度か来た形跡もあり、また、たとえばSpeedwayのベースが聴き慣れないプレイをしているのが気にかかったりもします(たしか、陸軍入隊直前ぐらいの録音で、エルヴィス自身がフェンダー・ベースを弾いたトラックがあったが、あれによく似ている!)。

speedway checker flag

いやもう謎だらけで、頭が痛くなりますが、わたしの「感触」を書いておきます。Speedwayはハル・ブレインのプレイ、他のトラックについても、ほとんどまたはすべてでハルがストゥールに坐ったと思います。バディー・ハーマンのクレジットは、たんなるミスか、判断のつけにくいどれかのトラックでプレイしたという意味ではないかと想像します。

そもそも、クレジットというのは案外面倒なもので、AFMに残されたコントラクト・シートを整理し、一覧をつくるときに、しばしば誤脱が起きています。アル・ケイシーやオリー・ミッチェルが、通称ではなくフル・ネームになっていることから考えて、このクレジットもAFMの書類によってあとで起こしたものに見えます(コントラクト・シートは支払伝票なので本名のフル・ネームを使う)。

なんだかあやふやな状況ですが、ストゥールに坐ったのがハル・ブレインであれ、バディー・ハーマンであれ、Speedwayのドラミングがすばらしいという事実に変わりはなく、いつ聴いても血が騒ぎます。


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テーマ : 60年代の輪郭
ジャンル : 映画

エルヴィス映画見直し Suppose by Elvis Presley(『スピードウェイ』OSTより その1)

2010-02-03

曲名
サポーズ(Suppose)
アーティスト
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
収録アルバム
『スピードウェイ』サウンドトラック(Speedway OST)
作曲者
マーティー・ディー、ビリー・ゲーリング(Marty Dee, Billy Goehring)
リリース年
1968年


ちょっと間が空いてしまい、相済みません。できるだけ頻繁に更新しようとは思っていますが、気持だけで時間が湧いてくれば、だれも苦労はしないわけでして、今後も頻度をあげるのはむずかしかろうと思います。

ようやくのことで、つぎの映画を見ましたが、見るだけで精いっぱい、サウンドトラックの切り出しもまだ手をつけていないので、今日は書くところまではたどり着けません。

つぎのエルヴィス映画は、ナンシー・シナトラと共演した『スピードウェイ』(1968年)です。

『スピードウェイ』は、「エルヴィス・プレスリーのキャリアのどん底の時期につくられた凡作」といったあたりが、映画としての評価の最大公約数(というか、最小公倍数?)でしょう。そういう評価をひっくりかえすか、あるいは追認するか、今日のところはそこまでは踏み込めません。とりあえず、本日は予告篇、本編は次回からです。

Speedway trailer


本編に入ったらおきどころがなくなるかもしれないので、サントラ盤には収録されているけれど、映画には使われなかった曲のクリップをおいておきます。

Elvis Presley Suppose



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テーマ : 60年代の輪郭
ジャンル : 映画

エルヴィス映画見直し You Can't Say No in Acapulco by Elvis Presley(映画『アカプルコの海』より その5)

2010-01-30

曲名
ユー・キャント・セイ・ノー・イン・アカプルコ(You Can't Say No in Acapulco)
アーティスト
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
収録アルバム
『アカプルコの海』サウンドトラック(Fun in Acapulco OST)
作曲者
ドロシー・フラー、リー・モリス(Dorothy Fuller, Lee Morris)
リリース年
1963年


エルヴィス・プレスリーは、少年マネージャーの紹介でホテルに勤めることになったということは、すでにこれまでの記事に書きました。同じホテルにアーシュラ・アンドレスが勤めていて、ライフガードと余興の高飛び込みをやっている男とつきあっていますが、ここにエルヴィスが割り込んでいって、既述の女闘牛士もからんで、話は典型的なパターンでもつれていくことになります。

前回は女闘牛士の歌をとりあげたので、今回はアーシュラ・アンドレスの歌です。タイトルの「マルグェリータ」は、カクテルではなく、アーシュラ・アンドレスの役名です。

Marguerita


この曲もやはりベースが精確なのが目立ちます。このサウンドトラック盤のなかでは、もっともメキシコ的色彩の強いサウンドかもしれません。


☆ ユー・キャント・セイ・ノー・イン・アカプルコ ☆


この物語でのエルヴィスは空中ブランコの事故によるトラウマを抱えていて、それを克服しようとホテルのプールの飛び込み台に上りはするものの、飛び込む決心は付きません。恋のライヴァルであるホテルのライフガードがそのことに気づき、恋のさや当てに利用するというルーティンも、当然ながら盛り込まれることになります。

そういうあれこれは、エンディングでみな解決されるのがこの種の映画の常道ですが、そのあたりを細かく書くのはやめておきます。かわりに、終盤近くに登場する、この映画でもっとも好ましいロッカ・バラッドをどうぞ。

You Can't Say No in Acapulco


『アカプルコの海』の海の挿入曲のなかでは、わたしはこのYou Can't Say No in Acapulcoがいちばん好きです。メキシコ風の曲がよくできていることが、このOST盤の質を高めていることはたしかですが、こういう「いつものエルヴィス」らしい曲もぜったいに必要ですし、その出来が、Bossa Nova Babyにしても、I Think I'm Gonna Like It Hereにしても、ハズレがないことも、このOST盤の魅力です。

エルヴィスがスターになったのは、Jailhouse Rockや、Hound Dogといったビートの強い曲のインパクトによってであることはまちがいありませんが、その裏側でもうひとつ彼がポップ・ミュージックの世界にもたらしたものがあると思います。「糖度低めのバラッドのシンギング・スタイル」です。Are You Lonesome Tonight?あたりだと、そのへんはかならずしも明瞭には感じられませんが、このYou Can't Say No in Acapulcoのように、ミディアム・バラッドになると、まさに甘さ抑えめのバラッドの歌い方の見本といえます。なんとも涼しげで、さわやかで、文句なしです。楽曲も、とくにコード進行が面白く、ちょっとコピーしてみたくなります。


terrace

terrace

terrace

terrace
キャメラをどこに置くかといった撮影の都合もあるだろうが、おそらくは主としてエルヴィスの都合で、崖につくられたレストランを、セットで再現した。ここでGuadalajaraとMargueritaの二曲を歌う。

terrace
レストランから見える入江。ここでダイヴィングのショウがおこなわれる。アカプルコの町が熱海なら、ここは伊東の城ヶ崎海岸といったおもむき。伊東観光協会の城ヶ崎紹介ページを見てみる

☆ グランド・フィナーレ ☆


エルヴィス映画のひとつのパターンといっていいと思いますが、万事めでたく落着したあとで、カーテン・コールのように登場人物が揃っているところでもう一曲うたって幕となる映画がたくさんあります。『アカプルコの海』でも、大騒ぎのフィナーレが用意されています。

その曲の「グァダラハラ」というタイトルを辞書で引くと「メキシコ中西部のハリスコ州の州都」とあります。アカプルコがあるのはグェレーロ州なので、そういうつながりではなく、なにかべつのことかもしれませんが、この曲の歌詞は全編スペイン語なので、どういう意味かはわかりません。

Guadalajara


☆ スコア3種 ☆


映画から切り出したスコアが残っているので、まとめて貼りつけておきます。聴き直して、つまらなかったら省略するつもりだったのですが、三曲とも出来がよく、すべて「イキ」にしました。

Still Partners


No Dive Today


Mariachi


いやまったく、スコアも上々の出来、挿入曲はみな平均点以上で、ダメな曲は皆無、Fun in Acapulco、Bossa Nova Baby、You Can't Say No in Acapulco、I Think I'm Gonna Like It Hereのように、口ずさみたくなる佳曲が目白押しとくるわけで、こんなにいい曲が揃った音楽映画などそうそうお目にかかれるものではありません。このシリーズの冒頭で、『アカプルコの海』はエルヴィス映画の代表作のひとつであるとした所以です。

end


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テーマ : 60年代の輪郭
ジャンル : 映画

エルヴィス映画見直し (There's) No Room to Rhumba in a Sports Car by Elvis Presley(映画『アカプルコの海』より その4)

2010-01-24

曲名
(ゼアズ・)ノー・ルーム・トゥ・ルンバ・イン・ア・スポーツ・カー((There's) No Room to Rhumba in a Sports Car)
アーティスト
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
収録アルバム
『アカプルコの海』サウンドトラック(Fun in Acapulco OST)
作曲者
フレッド・ワイズ、ディック・マニング(Fred Wise, Dick Manning)
リリース年
1963年


今日は『アカプルコの海』の最終回にしようと思ったのですが、曲を絞り込めず、結局、もう一回、つまり今回と合わせてあと4曲見ていくことにしました。

エルヴィスはアカプルコのクラブで会った女闘牛士(エルザ・カルデナス)に惹かれ、ちょっかいを出してしまいますが、その後、船を首になって雇われたアカプルコのホテルに勤めている娘(アーシュラ・アンドレス)に惚れてしまいます。

このような、考えなしのオス猫的行動がトラブルを生むのは、この種の青春映画のひとつのパターンで、愚かなふるまいをしないと映画的「事件」が起きず、プロットが作れないのだから、まあ、笑って受け入れるしかありません!

elsa

elsa

たいていの物語は、登場人物全員が賢明に振る舞っていたら、こんなことは起きなかっただろうと思われるものです。ということはつまり、われわれの現実社会も、登場人物全員が賢明に振る舞えば、なにも事件は起きず、退屈な平和が実現されることを、映画は証明していることになります!

ということで、エルザ・カルデナスのほうがその気になってしまったので、エルヴィスは、失敗したな、と思いながらも、二人の女性にいい顔をし、そのあいだにはさまって気まずい思いをしたり、本命であるアーシュラ・アンドレスをなだめたり、けっこう忙しいことになり、映画はそれを糧にエンド・マークを目指すことになります。いや、もういっぽうで、空中ブランコの事故によるトラウマの克服というのがあるのですが、まあ、そちらはのちほど。

今日は二人の美女のうち、エルザ・カルデナスにかかわる曲です。

The Bullfighter Was A Lady


エルヴィス・プレスリー・ファン・サイトを数カ所見たのですが、そのうちのひとつは、ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスのサウンドがブームだったので、この映画のサウンドトラックはTJB風につくってある、としていました。

elsaうーん、そう言いきっていいでしょうかねえ。後年の目で見ると、TJBはビッグネームです。1963年にもそうだったか? あのときにはまだLonely Bullの一発屋でした。しかも、まだツアー・バンドを組んでいないので、プロモーションでメディアに載ることもなければ、ツアーもしていませんでした。

ハーブ・アルパートはハンサムかもしれませんが、それはアルバム・ジャケットだけの話であり、この世のだれひとりとして、まだTJBというバンドがプレイしている姿を見たことはありませんでした。ハーブ・アルパートだって、そんなバンドがあるとは思っていなかったにちがいありません。ハル・ブレイン(ティンパニー)やアール・パーマー(トラップ・ドラム)といったスタジオ・プレイヤーによる臨時のメンバーで録音していただけで、ティファナ・ブラスの実体などなかったのです。

『アカプルコの海』よりずっとあとの1965年、TJBの存在を確固たるものにならしめたA Taste of Honeyの大ヒットによって、ツアー・バンドが組まれ(いうまでもなく、ハル・ブレインやオリー・ミッチェルのようなエースはスタジオの外には出ないので、ツアー・バンドには参加しない)、ハーブ・アルパート自身もステージに立つことになります。

この1965年以降につくられたイメージで、1963年をふりかえると、TJBがブームだったから、『アカプルコの海』は「ティファナ・ブラス風のサウンド」でつくられたように聞こえてしまうのではないでしょうか。『アカプルコの海』のときには、まだTJBサウンドは、だれでもすぐに認識するようなものではなかったと考えます。

ハリウッドでメキシコ風音楽をつくれば(LAは巨大なチカーノ・コミュニティーを抱えていた)、だれがやってもああいう音になるにすぎない、とわたしは考えています。『アカプルコの海』のサントラがとくにTJBを意識したわけではないでしょう。TJBのLonely Bull自体、要するに「ハリウッドでつくったメキシコ風音楽」なのだから、音が似て当たり前なのです。TJB風だと感じる人は、あれがハーブ・アルパートの独創になるものと勘違いしているのではないでしょうか。アルパートはマリアッチを借用し、アメリカ式ビート・ミュージックの上に載せてみただけです。

00TJB.jpg

『アカプルコの海』OST盤のクレジットでは、トランペットはAnthony TerranとRudolph Loeraとなっていますが、トニー・テランはハリウッドのスタジオのレギュラーです。オリー・ミッチェルといっしょにTJBの録音でトランペットをプレイしたこともあったでしょう。


☆ (There's) No Room to Rhumba in a Sports Car ☆


もう1曲もメキシコ美女とのシーンに登場する歌です。エルヴィス・プレスリーは、エルザ・カルデナスに誘われて彼女の車でドライヴに出かけるのですが、ちょっとキスしようとしたら、シフト・レヴァーに邪魔されてしまったりして、結局、うまくいきません。

theres no room to rhumba in a sports car


この(There's) No Room to Rhumba in a Sports Carはその場面で歌われるもので、歌詞もそのような状況を歌っています。「今夜こそはと思っていたけれど、ちょっとプランをまちがえたらしい、スポーツカーのなかじゃルンバを踊るわけにはいかない、ぜんぜん身動きとれないんだ、ちょっとキスをかすめ取ろうとしたら、スティアリング・ウィールに頭をぶつけちゃったぜ」といったような歌詞です。このあとに「こいつぁシャクだった!」をつけると、植木等になっちゃうのでご注意。でもまあ、そういう感じの歌です。映画だからこそ、状況に合わせて妙な歌詞が必要になったわけで、ふつうに盤をつくっていたら、こんな曲は出てこなかったでしょう。けっこう好きな曲です。

プロダクションは惜しいなと感じます。ほんの数テイクでオーケイを出してしまったのではないでしょうか。ハリウッドのプレイヤーは鍛え抜かれているので、それくらいのことはできるのですが、それでも、フィル・スペクターやブライアン・ウィルソンのように、なかなかオーケイを出さなかった人たちがすぐれた盤を残したのは、やはり、詰めが重要だということの証です。

(There's) No Room to Rhumba in a Sports Carは、あと数テイクかけて、左チャンネルのベース、ピアノと、右チャンネルのパーカッションのリズムをすり合わせていけば、もっとビシッと整った気持のよいグルーヴになったにちがいありません。

fun in acapulco drive

fun in acapulco drive

fun in acapulco drive

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ベースは派手なことはなにもしませんが、タイムがきれいで、好みのプレイヤーです。これくらい精確だと、ハリウッドのスタジオでも名を成しそうなものですが、レイ・シーゲルという人は知りません。

ついでにいうと、ギター陣のひとりはバーニー・ケッセルです。なんだか、トミー・テデスコみたいなプレイもしていますが! (There's) No Room to Rhumba in a Sports Carのエレクトリックはケッセルのプレイでしょう。ケッセルがプレイしたコースターズのDown in Mexicoをちょっと思い起こさせます。


☆ スコア3 ☆


今回もスコアからサンプルをつくりました。まずは、上述の(There's) No Room to Rhumba in a Sports Carと同じドライヴのシーンのスコアです。



もう1トラックは、エルヴィスとアーシュラ・アンドレスがそれぞれのトラブルを話し合うシーンからのものです。



このトラックの尻尾に、つぎの曲の頭を残してありますが、その曲のほうは次回に聴くことにします。

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エルヴィス映画見直し Mexico by Elvis Presley (映画『アカプルコの海』より その3)

2010-01-22

曲名
メキシコ(Mexico)
アーティスト
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
収録アルバム
『アカプルコの海』サウンドトラック(Fun in Acapulco OST)
作曲者
シド・テパー、ロイ・C・ベネット(Sid Tepper, Roy C. Bennett)
リリース年
1963年


今日も挿入曲2曲、スコア1曲ぐらいのペースでいきたいと思います。

まずはエルヴィスが少年マネージャーのラウールを前に乗せ、自転車でアカプルコの町を走りながら、少年とデュエットで歌うという趣向の曲、Mexicoです。

Mexico


この曲はおおいに好みですが、OST盤にはヴァージョン違いが収録されています。ラウール少年のパートを、スタンドインの女性シンガーが歌っているこのデュエット・ヴァージョンは、ノーマルな盤には収録されていないのです(後年、いろいろな盤が出ているので、そのなかのどれかには収録されているのかもしれないが)。

アカプルコもメキシコもいったことがありませんが、なんだか懐かしい感じのする町です。坂を下って海岸に出るところは熱海のようだし、背後の山は伊東の温泉旅館から見える伊豆の山々のようです。

エルヴィスはこの楽しそうな町に行くことはなく、彼の出演シーンはすべてハリウッドのスタジオで撮影されたのだそうです。そう思ってみると、なんとも面倒な撮影をやっていることに気づきます。引きのショットはスタンドイン、近寄るとスクリーン・プロセスで背後にアカプルコの風物を映して、エルヴィスが演技をはじめる、という形です。

standin
引きのショットはスタンドインを使ってロケで撮影されている。

elvis
アップになると、セットでのスクリーン・プロセスに切り替わる。

いやはや。じっさい、スクリーン・プロセスがむやみに多い映画で、そのせいでなんとも不思議なムードになっています。まあ、いかにも60年代らしいリアリティーのなさ、といってもいいのかもしれませんが。

やはり、無精しないでエルヴィスもメキシコ・ロケに行くべきだったと思います。1963年の時点では、まだ「引き潮」の実感はなかったでしょう。でも、やがてエルヴィスが時代からズレていったのは、ひとりビートルズだけが原因だったわけではなく、むしろエルヴィスの側におおいなる問題があったと思います。

後年、エルヴィスをひととおり聴き、録音データを読んで愕いたのは、60年代中期には、しばしば何年か以前の録音を引っ張り出してきて、シングルとしてリリースしていたことです。あの変化の激しい時代に、そんなことをやっていたら、時代遅れになって当たり前です。どうかしている、といいたくなる愚策です。

screen process elvis

『アカプルコの海』のそこらじゅうにばらまかれたスクリーン・プロセスを見ていて、そうか、これは古い録音を「最新シングル」にしてしまう無精と同じか、と思いました。いわば「消費される」ための映画だから、気合いは入らなかったのかもしれませんが、ロケ地におもむくようにしていれば、画面に力が加わり、結果も違ったものになっただろうと思います。

☆ El Toro ☆


今日のもう一曲、El ToroとはThe Bullという意味のようです。劇中、エルヴィス・プレスリーは闘牛士の衣裳でこの曲を歌います。

El Toro


この曲のドラムは、そこここにハル・ブレインらしさがちらほらするのですが、すでに63年、スタイルが完成していた時期であるにもかかわらず、「どこからどう見ても百パーセントのハル・ブレイン」にはなっていません。それは主として「鳴り」の問題のような気がします。たとえば、タムタムの音です。いかにもハル、というタムタムではないのです。

ハル・ブレインはその回想記、Hal Blaine & the Wrecking Crewの一章をエルヴィスに割いています。くわしくはべつの機会にふれますが、そのなかで、はじめて20世紀フォックスのスタジオに行ったときは、機材と録音テクニックの古さに愕いたといっています。

hal blaine gold star studio
ゴールド・スター・スタジオでのハル・ブレイン(1963年ごろ) ハルのセットには3本のマイクが当てられていることがわかる。

ドラムには上から全体に対して1本のマイクを当てるだけだったために、キック・ドラムの音を拾えず、したがったロックンロールらしいサウンドにはならなかったのだといいます。結局、インプットを増やすために応急処置がとられ、なんとかレコーディングを終えたということですが、映画を見ていると、サントラ盤とのミキシングの違いが気になるときがあります。

『アカプルコの海』はレイディオ・レコーダーでの録音なので、いつものハル・ブレインに近い音になりそうなものですが、どの曲もハルの個性が際だつ音にはなっていません。プロデューサーの要求か、エンジニアの考え方の違いか……。いや、いまのところ、答のない疑問にすぎないのですが。この曲は、ゴールド・スターでリヴァーブを深めにかけて録ってくれたら、もっと面白くなったかもしれない、惜しい、と思います。

☆ スコア2 ☆


本日も、エルヴィスの歌のないスコアのサンプルを2曲おいておきます。どちらも、エルヴィスがつとめることになったホテルのプールサイドのシークェンスで流れるものです。まず最初は、プールで働くライフガードの飛び込みを見て、エルヴィスがほめる場面で流れるものです(この下にdivshareのプレイヤーが表示されていない場合はリフレッシュしてください)。



elvis - jumping board

elvis - jumping board
以上の2ショットはロケで、エルヴィスの衣裳を着たスタンドインが演じている。背後は伊豆山系大室山(ウソ!)

elvis - jumping board
バスト・ショットになると、セットでのスクリーン・プロセスに切り替わる。

screen process
これはべつのシーンからのものだが、スクリーン・プロセスでの撮影方法を捉えたスナップ。

つぎもプールの場面ですが、こちらではエルヴィスが飛び込み台にあがって、水面をのぞき込み、そのとたんにかつての空中ブランコでの事故を思いだし、回想シーンに入り、そしてまたプールの場面に戻るというシークェンスで、中間にべつのタイプの音楽が挿入されています(この下にdivshareのプレイヤーが表示されていない場合はリフレッシュしてください)。



子どものころは、ハリウッド映画のオーケストレーションのことなど、あまり考えていませんでしたが、いまになって聴くと、じつはきわめてハイ・レベルだったことを痛感させられます。


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ハル・ブレインとレッキング・クルー
Hal Blaine and the Wrecking Crew: The Story of the World's Most Recorded Musician
Hal Blaine and the Wrecking Crew: The Story of the World's Most Recorded Musician
旧版は絶版、新版はまもなく発売ということらしい。

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