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The Sound of Music by the Exotic Guitars(『サウンド・オブ・ミュージック』より その2)

2009-06-20

タイトル
The Sound of Music
アーティスト
The Exotic Guitars
ライター
Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II
収録アルバム
Those Were The Days
リリース年
1968年
他のヴァージョン
OST, Martin Denny, Mantovani & His Orchestra, Percy Faith, the Hi-Lo's, Doris Day, Vic Damone
毎度申し上げているように、長年の音楽ファンで、自分がもっているものをきちんと把握している人というのは、まずいらっしゃらないでしょう。だからといって、把握していなくてよいということにはならないのですが、人間の記憶力には限界があり、よほどよく聴いた盤でないかぎり、A面の1曲目からはじまって、最後の曲まできっちりタイトルを書けるアルバムなんて、そう何枚もないでしょう。

The Sound of Musicのカヴァーで記憶していたのは2種類しかなかったのですが、検索をかけてみたら、意外にもぞろぞろ出てきて、あらら、でした。コンボ、オーケストラ、インスト、歌もの、コーラスもの、パターンはひととおりそろっています。


◆ ふたつのエキゾティカ ◆◆
聴いたとたん、面白い解釈だなあ、と感心したのはエキゾティック・ギターズ盤The Sound of Music(1968年)です。この曲が収録されたアルバムThose Were The Daysは、右のリンクから行けるAdd More Musicの「Rare Inst. LPs」ページでLPリップが配布されています。なかなか悪くないアルバムなので、ラウンジ・ミュージックやギター・インストがお好きな方は試聴なさるとよろしかろうと思います。いや、両者の中間にあって、両陣営から好まれない恐れもありますが!

Add More Musicのキムラさんは、このアルバムの紹介のなかで、The Sound of Musicは「南太平洋のようで」とあまり肯定的ではありませんが(ポップ/ロック的観点から、という意味であって、ラウンジ的観点からではない)、「エキゾティック・ギターズ」というプロジェクト名がどこから来たかといえば、マーティン・デニー流エキゾティカをギターで置き換えてみよう、ということだと想像されます。

エキゾティック・ギターズのリード・プレイヤー、アル・ケイシー。当たり前だが、すっかりお年を召してしまい、いわれないとそうとはわからない。
その意味において、EG'sのThe Sound of Musicが、キムラさんのおっしゃる「南太平洋」的な味わいになったのは、まさにメインラインのそのまたど真ん中を行った結果といえます。認識としては一致しているのですが、どう受け取るかというところで、わたしはキムラさんとは異なり、ラウンジ/エキゾティカ的観点からきわめて肯定的で、このシリーズのベスト・トラックのひとつと考えています。「ギターによるエキゾティカ」という発想を十全に実現したものだからです。

そもそも、EG'sがこの曲をカヴァーした裏には、マーティン・デニー盤The Sound of Musicがあったのではないでしょうか。こちらのヴァージョンが収録されたExotic Sounds Visit Broadwayは1960年のリリースで、まだ映画化以前であり、舞台版をカヴァーしたことになります。その舞台版がどんなサウンドだったのか知らないのですが、デニーはいつものサウンドでやっています。バード・コールもやっているのですが、とくに面白いカヴァーではありません。グルーヴが鈍重で、気分のいい瞬間というのはあまりなく、ただダラダラとしたレンディションです。

この曲にエキゾティカ的解釈を持ち込むのは面白いと思うのですが、発想は同じとはいえ、デニーは成功せず、EG'sは成功しています。このちがいはなにかというと、やはり、気持のよいふわふわしたサウンドが実現できたか否かでしょう。デニーはベースやフロア・タムの使い方をまちがえ、重苦しいサウンドにしてしまいましたが、EG's盤The Sound of Musicにはグッド・フィーリンがあります。


◆ オーケストラもの ◆◆
ジュリー・アンドルーズが歌うほうのThe Sound of Musicを聴けば、当然ながら、このテーマがオーケストラ向きの曲であることはすぐにわかります。だから、数多くのカヴァーがありそうなものですが、わが家には2種類しかありません。

マントヴァーニ盤(1961年)は低音部の極端に薄い、ヴァイオリンを中心としたアレンジで、なかなか快感のサウンドです。ホルンを薄くからめてくるところは、ポップ・オーケストラの常套手段とはいいながら、やはり、こういうタイプの曲では必要不可欠な味つけで、ここでもおおいに効果をあげています。

サンプル

パーシー・フェイス(1965年)もマントヴァーニに近い発想のサウンドなのですが、ハンド・シンバルとスネア(およびコンサート・ベース・ドラムもか?)によるアクセントが浮遊感を壊していて、そこで目が覚めてしまいます。2種類しかないオーケストラものThe Sound of Musicは、マントヴァーニのほうに軍配ではないでしょうか。


◆ 歌もの ◆◆
ヴィック・ダモーンのThe Sound of Musicは1959年としているサイトがあったのですが、これが正しいとすると、ブロードウェイで初演の幕が上がったとき(1959年11月)にはもうリリースされていたか、すくなくともin the canだったことになります。気のせいか、なんとなく、舞台でやりそうなアレンジ、レンディションに思えてきます。

そもそも、このヴァージョンには長ったらしい前付けヴァースがあり、ダモーンではなく、バックグラウンド・シンガーたちが歌っていますが、例によって言わずもがな、歌わずもがなのどうでもいい代物で、額に青筋が立ちます。舞台ではこういう風にやっていたのだとしたら、映画版が単刀直入にThe hills are aliveで入ったのは大正解、アーウィン・コスタルの手柄です。まあ、こんな馬鹿馬鹿しいよぶんな代物があっては、画面づくりなどできたものではないので、ロバート・ワイズがはじめから、前付けは切れ、とコスタルに指示しておいたのかもしれませんが。

ドリス・デイ盤(1960年)はくだらない前付けヴァースを切り捨て、正しくThe hills are aliveで入っています。最初に正しい方針を立てれば、しばしば結果はついてくるものです。アレンジャーはだれだろうと確認すると、アクスル・ストーダール。さすがは御大、前付けヴァースを切り捨てたことのみならず、空間、すき間を生かしたサウンド造りにも手腕が感じられます。ただし、イントロのラインはあまり好みではありませんが。ドリス・デイの歌い方も、よぶんな力が入っていなくてけっこうなものです。

ハイ・ロウズ盤はわが家にある唯一のコーラス・グループによるカヴァーです。こちらのアレンジャーはウォーレン・バーカー(当家では『紅の翼』『サンセット77』の記事でふれている)で、コーラス・グループの場合は、和声的に殺し合いになるのを避けるために、そうせざるをえないという側面があるのですが、いたって控えめなアレンジにしています。

映画版の子どもたちのコーラスによるThe Sound of Musicを聴いたあとだと、どうしても色あせてしまいますが、それでもハイ・ロウズ盤にはそこかしこにいい響きになっているところがあります。まあ、それがなければコーラス・グループの価値はゼロになってしまうのだから、当たり前ですが、昔のコーラス・グループは、ロック・エラのグループとは異なり、和声的に複雑で、そういうところはロック・エラに育った人間には面白く感じられます。


◆ 粒ぞろいの挿入曲 ◆◆
わたしはアーサー・フリードのMGMミュージカルが好きなので、『サウンド・オヴ・ミュージック』を史上最高のミュージカル映画などと手放しで褒める気にはなれませんが(いや、ダメだというのではなく、すぐれた映画だとは思うが、やはり子ども向け、ご家族向けの色合いが強いことは否定できない)、これほど楽曲の粒がそろったミュージカル映画はほかに知りません。「史上最高打率のミュージカル」といっても大丈夫でしょう。無駄打ちは皆無に近いのではないでしょうか。

テーマ以外の好きな曲を端からあげていくと、Sixteen Going Seventeen、My Favourite Things、Climb Every Mountain、Something Good、Edelweiss(トラップ大佐と娘のデュエット・ヴァージョンのほうがいい)といったあたりです。

Prelude and The Sound of Music~Overture and Preludium (Dixit Dominus)~Morning Hymn and Alleluia

しかし、『サウンド・オヴ・ミュージック』のすごさは、じつはそこから先のところにあります。とくに好きな曲でなくても、いずれもキャッチーですぐに覚えてしまうし、子どもには楽しいだろうと思う曲もたくさんあるのです。単独の楽曲としてはさておき、ミュージカルのなかで流れる曲としては、どれも納得のレベルに達しています。たとえば、Maria、Do Re Mi、The Lonely Goatherd、So Long Farewellなどのことです。

カヴァーがもっとも多いのは、当然ながらMy Favorite Thingsで、わが家にも複数のジョン・コルトレーン・ヴァージョンを筆頭に、十数種類があります。しかし、すでにThe Sound of Musicの聞き比べだけで力尽きているので、この曲はまたの機会にゆずることにします。

Maria~I Have Confidence~Sixteen Going on Seventeen


◆ “路上のミュージカル” ◆◆
ただたんに「ミュージカル」といえば舞台のものを指します。たぶん、それがひとつの縛りになってのことなのだと思いますが、MGMミュージカルがそうであるように、どこの会社のミュージカル映画も、かつてはスタジオのなかでのみつくられるもので、舞台同様、良くも悪くもきわめて人工的な味わいのものでした。『サウンド・オヴ・ミュージック』と同じロバート・ワイズが監督した『ウェスト・サイド物語』が公開当時センセーションを喚んだのは、あの映画が「ミュージカルを路上に投げ出した」からです。

わたしが映画を見はじめたのは1950年代なかばのことで、MGMミュージカルの黄金時代は知らず、『ウェスト・サイド物語』もリリース時には見ていなくて、ずっと後年、1967年だったかの再映のときが初見というくらいで、こうしたミュージカルの変化のことは、あとからたどったものにすぎません。

だから、『サウンド・オヴ・ミュージック』が『ウェスト・サイド物語』の流れを汲んだ「路上のミュージカル」、スタジオの外に出たミュージカル映画だと意識してみたわけではありませんでした。あとになって歴史を知って、あの冒頭の空撮の意味が明瞭になりました。トラップ邸の周囲の風景やザルツブルクの町並みがなければ、『サウンド・オヴ・ミュージック』は精彩のない映画になっていたでしょう。

いや、どちらがいいと決めつけているわけではありません。「路上のミュージカル」を先に見たわたしは、後年、アーサー・フリードの諸作に接して、あのスタジオとテクニカラーでのみ実現できる人工的な色彩に強く心を動かされました。大人になってからはそういうものばかり見てきたのですが、久しぶりに『サウンド・オヴ・ミュージック』を見たら、昔の人たちが「スタジオの外のミュージカル」をはじめて見たときの感覚を追体験したかのようでした。MGMミュージカルが古くさいものと打ち捨てられたのは、60年代にあっては仕方のないことだったのだろうと、納得できました。


◆ おまけ ◆◆
話は冒頭にもどりますが、エキゾティック・ギターズのリードは、セッション・プレイヤーのアル・ケイシーが弾いています。彼の仕事としてもっとも有名なのは、シナトラ親子のSomethin' Stupidのイントロで聴かれるアコースティック・ギターです。そもそも、ケイシーは、この曲のオリジナルである、カーソン・パークス盤でもギターを弾いています(こちらはパークスのオフィシャル・サイトで冒頭を聴くことができる。テンポは遅いが、ケイシーのギターはシナトラ親子盤と基本的には同じ方向性のプレイ)。

ただし、ケイシーがシナトラ・セッションに呼ばれたのはそういう理由からではなく、シナトラ盤Somethin' Stupidの共同プロデューサーのひとり、リー・ヘイズルウッドとの長年の関係からでしょう(ただし、この直前に、ジミー・ボーウェンがプロデュースした、フランク・シナトラのThat's Lifeでもケイシーはギターを弾いていて、要するにこの時期、彼はハリウッドのスタジオのレギュラーだったというだけにすぎない、という見方もできる)。

Surfin' Hootenannyを丸ごと収め、トラックを追加したAceのJivin' Around。ギターのみならず、ケイシー自身が弾くハモンドも楽しめる。
アル・ケイシーの自己名義の盤としてはSurfin' Hootenannyが有名で、とりわけ、「ギター・プレイの模写」という変なことをやっているタイトル・トラックはおおいに楽しめます。ほかにもいくつか出ているようで、その一部をここで聴くことができます。

蛇足をもうひとつ。アル・ケイシーの写真を探していて、とんでもないエディー・コクラン・ファン・サイトに飛び込みました。これがあればEMIのエディー・コクラン・ボックスのブックレットはいらないってくらいで、いままで苦労してあの読みにくいセッショノグラフィーを解読していたのはなんだったんだ、と地団駄踏みました。三か月まえにこれを見つけていたらなあ……。コクラン・ファンにはマストのサイトです。

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