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60年代の輪郭 『ドクター・ノオ』(『007は殺しの番号』)

2009-07-25

タイトル
『ドクター・ノオ』(『007は殺しの番号』)
アーティスト
ジョン・バリー・オーケストラ(The John Barry Orchestra)
収録アルバム
『ドクター・ノオ』(Dr. No OST)
作曲者
モンティー・ノーマン(Monty Norman)
音楽監督
モンティー・ノーマン(Monty Norman)
原題
Dr. No
監督
テレンス・ヤング(Terence Young)
リリース年
1962年

☆スパイがいっぱい☆


ものごとというのは、時間がたってみると、ああ、そういうことだったのか、とすんなり意味がわかることも多いのですが、60年代のスパイ映画ブームとはいったいなんだったのかは、いまだによくわかりません。

もちろん、「正義のヒーローが活躍するスピーディーなアクション映画」というのは、いつの時代にも好まれるのですが、そのヒーローが「スパイ」だというところで考え込んでしまいます。

社会的解釈としては、米ソ冷戦構造がはっきりしてきた時代で、東西の陣営が諜報戦でしのぎを削っていた、ということもあるのでしょう。1960年には、アメリカのU2型偵察機が、領空侵犯によってソヴィエトに撃墜されるという事件がありました。わたしは子どもだったので当てになりませんが、「スパイ」ということばが日常語になったのは、この事件以後ではないでしょうか(太平洋戦争戦前戦中は「間諜」という語が一般的だったのでは?)。

Lockheed U-2
ロッキードU-2

そして、『ドクター・ノオ』の公開直後のことになりますが、イギリスでは「プロフューモ事件」というのものが起きます。マクミラン内閣の陸相ジョン・プロフューモが、クリスティーン・キーラーという娼婦と関係し、このキーラーがソヴィエトのスパイとも関係があったために、プロフューモにスパイの疑いがかかった、という事件です。これはジェイムズ・ボンド的なアクション系のスパイ映画より、ジョン・ル・カレやレン・デイトンといった、イアン・フレミングより若い世代のエスピオナージュ作家の作品に深甚な影響を与えることになります。

Chiristine Keeler
クリスティーン・キーラー

いずれにせよ、ジェイムズ・ボンドが登場した1962年というのは、現実の世界でスパイがしばしば取り沙汰される時代だった、ということはいえます。

☆願望充足……でも、どんな?☆


社会的な背景だけで映画が爆発的にヒットすることはありません。なんらかの意味で願望充足の原則にかなっていなければならないはずです。スパイ映画でわれわれはどんな願望を充足させているのでしょうか? ひとつ思いつくのは、固定された身分からの脱出、解放ということです。

スパイというのはアメーバ的、またはカメレオン的なところがあり、状況に合わせて自分自身のありようを変えていくことができ、さらにいえば、なんらかの「仮面」「覆面」によって、自身の存在を抹消することすらできます。

Sean Connery from Dr. No

ちょうどジェイムズ・ボンドが登場したのと同じころ、日本では山田風太郎の忍法小説がブームになりますが、忍者はいわば日本古来のスパイ。当然、西欧的スパイと同じように、仮面の下にほんとうの自分を隠すことをつねとします。

われながら図式的すぎるような気もしますが、戦争が終わって20年近くたち、社会の流動性が失われ、よどみはじめたあの当時、いわゆる「管理社会」への嫌悪、息苦しさからの解放を求める気分が生まれたのだろうと思います。それが、たんなるヒーローではなく、「仮面のヒーロー」であるスパイや忍者へと、観客や読者の気持ちが向かっていった理由のように感じます。

Dr. No
ドクター・ノオ

☆ガジェットなし、素手の007☆


ジェイムズ・ボンド・シリーズ第一作、『ドクター・ノオ』(公開時の邦題は『007は殺しの番号』だった。改題しなければならないほど悪いタイトルではないと思うのだが)を、久しぶりに再見しました。

ボンド・シリーズは、あとのほうにいくと大がかりになって、大向こうをアッと驚かせる仕掛け、ガジェットが重要になっていきます。しかし、この『ドクター・ノオ』の段階では、まだガジェットは活躍しません。そもそも第一作なので、シリーズものとしてのフォーマットが確立していなくて、ガジェットの供給源である〈Q〉そのものがまだ登場していないため、秘密兵器は抜き、ボンドはほとんど素手で(ワルサーはもっているが)、巨大地下組織に立ち向かうことになります。

bond's gun
ボンドはベレッタを取り上げられ、ワルサーを渡される。
でも、それでおしまい。ファンシーなガジェットは登場せず。


当然、地味といえば地味なのですが、非常にすっきりした、ベーシックな味わいのある、あるいは「トラディショナル」といってもいいくらいに王道を行くストレートなアクション映画になっていて、80年代以降のゴテゴテと厚化粧したボンド映画より、好ましく感じます。映画としての作り方が基本に忠実なのです。そして、それでもこの映画が貧相に見えない理由は、きびきびしていると同時に、優雅なショーン・コネリーの、身のこなしだと感じます。

☆原子力音痴?☆

ボンドは拳銃一丁ですが、悪人側は原子力プラントなんぞをもっていて、じつに大がかりです。このあたりは、やがてボンド・シリーズの特徴として、どんどん膨張していくわけで、すでにこの第一作で、後年のケレンの原型は提示されています。
dr. no's plant

いまになると、ドクター・ノオの人物造形はケレンが行きすぎに感じますが、しかし、これがないと新味は出せなかったでしょう。この悪人のケレンは、ボンド・シリーズのみならず、あの時代の便乗スパイ映画、いわゆる「007スプーフ」の特徴となっていきます。

思えば、これが70年代に登場するInternational Conspiracy Novel、すなわち国際陰謀小説の萌芽だったのですが、あの時代には、そういう未来の変化になど想像力はおよびませんでした。

よけいなことですが、放射能に対する不用心が目だつ映画で、制御棒のすぐそばでドクター・ノオと闘ったボンドは、あの程度の防護服では被爆を免れず、第二作どころか、この映画のエンディングにすらたどり着けなかったでしょう。まあ、そのへんが「大人のおとぎ話」ということで……。

trap
ボンドは通風孔に見えるものを通って脱出するが……
cooling water
突然、水に流れてきて、押し流されそうになる。なんだか、原子炉の冷却水のように思えるのだが……。

☆2種類のDVD☆

有名な映画はほとんどみなそうですが、『ドクター・ノオ』のDVDも、プレインなものと特典ありの2枚組がリリースされています。ふつうのディジタル・リマスターはいいとして、拡大版には以下のような特典があるそうです。

ドクター・ノオ(アルティメット・エディション)
Dr. No DVD ultimate edition

<特典>
【Disc-1】
●テレンス・ヤング監督と製作スタッフ、キャストによる音声解説
【Disc-2】
●極秘事項:(1)ボンド映画の復元
●MI6:機密書類保管庫:(1)ジェームズ・ボンドの銃 (2)ボンド映画プレミア:オープニング・ナイト (3)クレジット
●秘密任務:(1)007の履歴書 (2)ボンド・ガール (3)味方 (4)敵 (5)アクション・マニュアル (6)Qの秘密兵器 (7)魅力的なロケ地
●任務遂行レポート:(1)メイキング・オブ・『ドクター・ノオ』 (2)ドキュメンタリー“テレンス・ヤングとボンドに万歳” (3)パブリシティ用映像
●007プロパガンダ:(1)オリジナル劇場予告編集(4種) (2)TVスポット集(2種) (3)ラジオ・スポット集(6種)
●イメージ・データベース:1962年『ドクター・ノオ』公開当時のフォト・ギャラリー

次回はいよいよ本題、モンティー・ノーマンとジョン・バリーによる、『ドクター・ノオ』の音楽を検討します。

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テーマ : 60年代の輪郭
ジャンル : 映画

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