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エリー・グリニッチ追悼 その18 ザ・シャドウズ“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High by the Shadows)

2009-11-04

曲名
“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High)
アーティスト
シャドウズ(The Shadows)
収録アルバム
『シェイズ・オヴ・ロック』(Shades of Rock)
作曲者
ジェフ・バリー、エリー・グリニッチ、フィル・スペクター(Jeff Barry, Ellie Greenich, Phil Spector)
リリース年
1970年


本日はRiver Deep Mountain Highの残り物をそそくさと片づけることにします。もともとたいした曲ではないのに、なぜこれほど多くのカヴァーがあるのか、わたしにはよくわかりません。

野心的楽曲に見えるので、その野心に自分自身を寄り添わせることに快感を覚えるとか、カヴァー曲としてはちょっとシブい選択に見えると思いこんでいるとか、その程度のことかもしれません。「アーティスティック」なふりなんぞをやってみたいのでしょうねえ。きわめて知的な業界、ではないですからね、あそこは!


☆ シャドウズ ☆


1967年に日本に来たときは、シャドウズはデビュー当時とそれほど大きく変わらず(ギターがフェンダーからバーンズに替わっていたが)、だれもが考える「シャドウズらしさ」をまだ濃厚に身にまとっていました。

ところが、その後の嵐の時代に揉まれたのか、68年から急速にサウンドが変化しはじめ、たちまち、町ですれ違ってもわからないほど面変わりしてしまいました。あれはなんだったのでしょうか。マーケットは気まぐれなものだから、すこし我慢していれば、またかつてのシャドウズ・サウンドが受け入れられる日がめぐってきただろうに、なんだってバカげた変身などしたのかと思います。

ということで、1970年のアルバム『シェイズ・オヴ・ロック』では、どん底に落ち込んだシャドウズの、すでにシャドウズではなくなってしまったサウンドを聴くことができます。いったい、この見知らぬバンドはどこから湧いてきたのか、というぐらいの面変わりで、かつてのシャドウズ・サウンドのかすかな残り香すらありません。

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☆ ディープ・パープル ☆


野心的な楽曲にふさわしい、野心的なアレンジで、野心の多くがそういう結果を招くように、みごとに大失敗した好例が、まだデビューまもないディープ・パープルのRiver Deep Mountain Highです。大まじめにやったのでしょうが、まじめなぶんだけ、いまになると滑稽に聞こえます。



Hushを聴いたときも、なんとなく感じたのですが、初期のディープ・パープルは、ヴァニラ・ファッジをワーキング・モデルにしていたのでしょう。シャドウ・モートンほどのアイディアの引き出しがない子どもたちが、一生懸命にああいうタイプのアレンジを真似してみたという印象です。なんにも考えていない脳天気でシンプルなギター・バンドへと舵を切り直したのは正解でしたね。

こういうコテコテの花魁アレンジというのは、たいていの人が失敗しますが、技術を伴わない人たちがやると、呆れかえった大惨事になるというサンプルが、このディープ・パープルのRiver Deep Mountain Highです。やっぱり、この失敗があってこそ、シンプルなSmoke on the Waterでの成功があったのでしょう。

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☆ その他のヴァージョン ☆


ほかに、いつものようにエリー・グリニッチのセルフ・カヴァーもありますが、またしてもたいした出来ではありません。ニール・ダイアモンドの近年のものもありますが、これについては、書くと頭に血がのぼりそうなので、存在する、というだけにとどめておきます。

まだほかにも、ニルソンの別エディットとか、ジョージ・ハリソンのブートとか、ハンパなものがありますが、どれもどうということはありません。これをもってRiver Deep Mountain Highはおしまいです。

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テーマ : 60年代の輪郭(音楽)
ジャンル : 音楽

エリー・グリニッチ追悼 その18 ビル・ディール&ザ・ロンデルズ“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High by Bill Deal & the Rhondels)

2009-11-02

曲名
“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High)
アーティスト
ビル・ディール&ザ・ロンデルズ(Bill Deal & the Rhondels)
収録アルバム
『ザ・ヴェーリー・ベスト・オヴ・ビル・ディール&ザ・ロンデルズ』(The Very Best of Bill Deal and the Rhondels)
作曲者
ジェフ・バリー、エリー・グリニッチ、フィル・スペクター(Jeff Barry, Ellie Greenich, Phil Spector)
リリース年
196?年


前回に引きつづき、River Deep Mountain Highのカヴァーをいくつか見ます。


☆ ビル・ディール&ザ・ロンデルズ ☆


まずは、I've Been HurtやWhat Kind of Fool (Do You Think I Am)のヒットがある、ビル・ディール&ザ・ロンデルズのカヴァーです。いちおう、このヴァージョンを看板に立てましたが、だからといって、すぐれているというわけでもありません。気張らずに、淡々とやってくれたので、嫌味ではないところは買える、といった程度です。

しかし、こういう風に、素直にやるグループ、素直にやる以外にやり方を知らない素朴なバンドがやっても、退屈でだるい曲に聞こえるのだから、やっぱり「元がダメ」だからどこにも行き着かないのだ、という明快な結論が得られます。

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素材が悪いから、みなゴテゴテと厚化粧したあげく、ドカーンと髪の毛を盛り上げて、さらにその上に櫛、簪、笄を林立させる「花魁アレンジ」を指向してしまうのです。なかば腐った素材を扱うことで発展してきたフランス料理のノリです。

ドラムが下手でタイムが不正確なことも全体の足を引っ張っています。ドラムが上手ければ、この曲のダメ・カヴァー大行進のなかでは、上位にいった可能性があります。だから、セッション・ドラマーを使うことが大事なのです。経年変化で腐るか腐らないかの分かれ目はドラムの善し悪しにあります。


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☆ エリック・バードン&ディ・アニマルズ ☆


この業界ではめずらしくないことですが、だれかのエゴが突出して、あとになってバンドの名前に冠がかぶせられることがありました。わたしはそういうのが大嫌いで、アニマルズはアニマルズだろうに、スプリームズはスプリームズでいいじゃないか、などと子どものころもムッとなっていました。

そういう場合はたいてい、冠になった名前の人物、というか、そのひとの歌い方and/or声が嫌いなのです。歌が憎けりゃ名前まで憎い、です。ダイアナ・ロス同様、わたしは子どものころからエリック・バードンが不得手で、アラン・プライスのほうがはるかに好きだった、という話は、つい最近、Songs for 4 SeasonsブログのBetween Today and Yesterday by Alan Priceという記事に書きました。

スタジオ録音


うーん。歌い方も好きではありませんが、バンドもギッコンバッタンがひどくて、疲れてしまいます。

この時期、キャロル・ケイがアニマルズのレコーディングに参加したことがあります。病気、ケガ、その他の理由で、足りないメンバーを補うだけの意味でスタジオ・プレイヤーの助けを借りるケースもあったのでしょう。

Sky Pilotなどを聴くと、これはキャロル・ケイかもしれないと感じます。キーをCにしていうと、C-(low)E-F-F#-Gという、後年、細野春臣がはっぴいえんど時代によく使ったフレーズは、じつはキャロル・ケイの「サイン」で、それがSky Pilotには出てくるのです。

しかし、River Deep Mountain Highはどうでしょうかねえ。ドラムが下手だとベースも下手に聞こえることはよくあるので(二人のタイムがズレ、どちらも合っていないように聞こえる)、判断しにくいところですが、ちがうのではないかと感じます。

eric burdon and the animals

どうであれ、よくまあ、これほどギクシャクしたグルーヴがつくれるものだと、むしろ感心してしまいます。わたしだったら、自分でやっていて、真っ直ぐ素直に進まないのにいらだって、スタジオで暴れますね。ドラマーを撃ち殺してから、ドラムレスで録音すればよかったのに。

エリック・バードンの冠がついてから、アニマルズは日本に来ましたが、内紛でもあったのか、ツアーを途中で打ち切って帰ってしまいました。テレビでライヴを見ましたが、いやもう、ひでえのなんの、あんなものに金を払ったら、一生後悔したでしょう。テレビで見ていても、ブラウン管をたたき割りたくなりましたものね。Sky Pilotでスモークを焚き、マイクをブン回しているのを見て、中学生は馬鹿笑いし、テレビのスウィッチを切りました。

ステージングもアホでしたが、このRiver Deep Mountain Highのカヴァーも、あまりにも思いこみのひどいアレンジとサウンドで、聴いていてやりきれなくなります。エゴ・トリップに入って、自分のやっていることが見えなくなっていたのでしょう。

River Deep Mountain Highは残り3ヴァージョン。たいしたものはありませんが、ここまでやったのだから、投げずに最後まで行くつもりです!

Love Is

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Eric Burdon & the Animals
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これがオリジナル・アルバムだが、ろくな曲が入っていないので、これはパスして、ベスト盤にしたほうがいい。

ベスト盤
The Best of Eric Burdon & the Animals, 1966-1968
Eric Burdon & the Animals
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これはエリック・バードンの冠がついて以降のベストで、EMI時代の曲は入っていない。Inside Looking OutやHelp Me Girlなど、初期アニマルズのムードが残存する曲は楽しめるし、サイケデリックに突入し、アメリカで録音するようになってからのものでも、San Franciscan NightsやMontereyは悪くない。

テーマ : 60年代の輪郭(音楽)
ジャンル : 音楽

エリー・グリニッチ追悼 その17 ニルソン“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High by Nilsson)

2009-10-30

曲名
“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High by Ike & Tina Turner)
アーティスト
ニルソン(Nilsson)
収録アルバム
『パンデモニアム・シャドウ・ショウ』(Pandemonium Shadow Show)
作曲者
ジェフ・バリー、エリー・グリニッチ、フィル・スペクター(Jeff Barry, Ellie Greenich, Phil Spector)
リリース年
1967年


River Deep Mountain Highのつづき、今回はカヴァーをいくつか取り上げます。

数はそれなりにあるのですが、この曲のカヴァーはどれもうまくいっていないと感じます。そのなかで、ニルソン盤は比較的よくできているといえます。素っ頓狂なアレンジではなく、ティナ・ターナーのオリジナルのくどさとは対照的に、かなりあっさりした出来です。いや、楽曲が楽曲だから、ニルソンとしては精一杯くどくやってみたものの、もともとの地色が出て、嫌みのない仕上がりになったのでしょう。

ニルソンのRiver Deep Mountain Highは少なくとも2種類あります。RCAからのデビュー盤、『パンデモニアム・シャドウ・ショウ』(Pandemonium Shadow Show)に収録されたものと、RCAでの最初の2枚をリミックスして編集した『エアリアル・パンデモニアム・バレエ』(Aerial Pandemonium Ballet)に収録されたヴァージョンです。

nilsson

この比較はむずかしくて、お好みというしかないように思います。最初のエディションはスペクター風にリヴァーブが深く、はっきり聞こえる音はドラムぐらいで、あとはグツグツの煮込みシチュー状態です。

まったくの想像ですが、ニルソンはソングライターとしてフィル・スペクターの仕事をしていたし、スペクター・セッションでピアノをプレイしたこともあったそうです。ティナ・ターナーの録音のときにも、スタジオにいたのではないでしょうか。生であの音を聴いたら圧倒されるでしょう。それがこのカヴァーの最大の動機ではないか、などと空想して遊んでいます。

もうひとつの、『エアリアル・パンデモニアム・バレエ』収録のリミックス再編集盤は、リヴァーブが浅く、よりドライな音になっています。こちらのほうがずっとクリアです。

それにしても、このドラムはだれでしょうか。初期のニルソンはジム・ゴードンとジム・ケルトナーだったようですが、はてどちらなのか。ほとんどバックビートしか叩かないのですが、うまいなあ、と思います。ストップ・タイムからの戻りでの、フロア・タムによる短いフィルインもなかなかけっこうです。

Pandemonium Shadow Show、Aerial Ballet、Aerial Pandemonium Balletの3オン1

Pandemonium Shadow Show/Aerial Ballet/Aerial Pandemonium Ballet
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売り上げランキング: 183673


Pandemonium Shadow Show国内盤、紙ジャケ
パンディモニアム・シャドウ・ショウ(紙ジャケット仕様)
ニルソン
BMG JAPAN (2007-08-22)
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☆ スプリームズと4トップス☆



あとはたいしたものがなく、どれにしようかと考えているうちに時間がたってしまったので、以下は順不同、ランダムにいきます。まずはスプリームズと4トップスの共演盤。

スプリームズ+4トップス クリップ


もうダイアナ・ロスが抜けたあとなのはわたしとしては歓迎ですし、このリズム・セクションは明らかにUp the Ladder to the Roofと同じメンバーで、そこまではオーケイです。でも結果は、なぜかしっくりこないグルーヴなのです。むかしはUp the Ladder to the Roofのグルーヴが好きで、River Deep Mountain Highもその延長線上にあるとは思うのですが、テンポやリズム・アレンジが合わないのか、のれません。

そもそも、Up the Ladder to the Roofからしてたいしたものではなかったのに、若さゆえの過大評価をしたかと思い、聴き直しました。それなりに楽しめますが、すごいリズム・セクションというわけでもないようです。だから、どんなテンポ、どんなノリでもスムーズにやってのけるとはいかないのでしょう。そういってはなんですが、かなりタチの悪い楽曲なのだと思います。アイガー北壁かも!



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☆ イージー・ビーツ ☆


もうひとついきます。Friday on My Mindのイージー・ビーツのヴァージョンはどうでしょう。スタジオ録音ではなくて、ライヴなのですが、クリップがありました。

イージービーツ


うーむ。まあ、60年代のバンドはこんなものということにしておきましょう。もちろん、スタジオ録音のほうはすこしましです。ただ、彼らはスタジオ・プレイヤーを使わなかったのか(オーストラリアだから、などということはない。オーストラリアにも影武者はいたという記事を以前読んだことがある。相当数がプロのプレイだったそうだ)、アルバム1枚聴くと、下手なことがよくわかります。

どうせ下手ならば、Friday on My Mindを聴くほうがずっといいのではないかと思います。

イージービーツ フライデイ・オン・マイ・マインド


イージービーツ盤を聴いていて、こういうスモール・コンボ・アレンジなら、スティーヴ・マリオットが歌ったのを聴いてみたかった、と思いました。この曲が似合うロック・シンガーというなら、スティーヴ・マリオットがいちばんでしょう。

残り5ヴァージョン、あと一回でおえるのはキツいですねえ。しかたないから、あと二回延長することにします。

テーマ : 60年代の輪郭(音楽)
ジャンル : 音楽

エリー・グリニッチ追悼 その16 アイク&ティナ・ターナー“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High by Ike & Tina Turner)

2009-10-28

曲名
“リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ”(River Deep Mountain High by Ike & Tina Turner)
アーティスト
アイク&ティナ・ターナー(Ike & Tina Turner)
収録アルバム
『リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ』(River Deep Mountain High)
作曲者
ジェフ・バリー、エリー・グリニッチ、フィル・スペクター(Jeff Barry, Ellie Greenich, Phil Spector)
リリース年
1966年


うちにあるものだけでの比較ですが、エリー・グリニッチの書いた曲のなかでもっともカヴァーが多いのは、このRiver Deep Mountain Highのようです。なにが理由でそういうことになったのか、わたしにはさっぱりわかりませんが!

一回ですませるのは大変なので、二、三回に分けて各ヴァージョンを見ていくことにします。いや、それほどすごいヴァージョンはないのですがね。


ティナ・ターナー


アイク&ティナ・ターナーのRiver Deep Mountain Highでフェンダー・ベースをプレイしたキャロル・ケイが、こんなことをいっていました。

「60年代にはしばしば複数のベースを重ねたことについてよくきかれるのだが、多くの人が誤解している点がある。『複数のベース』とは異なった種類のベースであり、たとえばアップライトとフェンダー、フェンダーとダノ(ダンエレクトロ)を一本ずつ組み合わせることであって、同じ種類のベースを重ねることはない。唯一の例外はRiver Deep Mountain Highで、あのときは二人でフェンダー・ベースをプレイした」

carol kaye
キャロル・ケイ

ハリウッドのスタジオで広くおこなわれていた、複数のベースにユニゾンでプレイさせ、厚みを出したり、輪郭をつけたりする手法が、River Deep Mountain Highでは極限まで追求されたことになります。まったく当てにならない粗雑な伝記本によれば、ベースは4人、キャロル・ケイ、レイ・ポールマン、ジミー・ボンド、ライル・リッツとなっています。

もちろん後二者はアップライト・プレイヤーで、ボンドはアップライトのみ、リッツはフェンダーをプレイしたクレジットを見た記憶があるので、フェンダー×3、アップライト×1の可能性もあります。聴いてみてどうか? そんなことを判断できるわけがないでしょうに!

フィル・スペクターのようなタイプは、コケるなら37位だとか、そういう中途半端なことにはなりません。全力疾走でけつまずき、10メートルかそこら吹っ飛んで、危うく頸椎骨折ぐらいの大コケが似合います。ざっとポップ・ミュージックの歴史を見渡して、これほどみごとな大失敗はほかにはあまりないだろうと思います。さすがはフィル・スペクター、しみったれたことはしなかった、と拍手を送りたくなるようなコケ方でした。

spector tina and ike turner
フィル・スペクター、ティナ・ターナー、アイク・ターナー

でも、イギリスではヒットしたって? アメリカ人から見たら、ビルボード以外はチャートとは呼べないのですよ。ナンシー・シナトラは日本(とイタリア)では人気があったけれど、会社が契約を更新するかどうかで考慮したのはアメリカ国内での売上げだけでした。外国でヒットしたって、アメリカ人の知ったことではないのです。スペクター自身、そのことをよく承知していたから、この大コケのあと、引きこもりになってしまったのです。

なぜコケたか? スペクター自身の分析では、一般向けではなかった、とのことだそうですが、まあ、ヒットしなかったものはすべてそうです。だから、占いが当たったとかいうのといっしょで(あなたはご家族の問題を抱えていますね、といわれれば、たいていの人間は家族の問題を抱えていることに思いあたる!)、外れるはずのない分析をしただけです。

基本のところではスペクターのいうとおりですが、その「一般向けではない」の第一箇条は、ティナ・ターナーのヴォーカルです。70年代なら、これくらいのアクの強さはどうということはなかったでしょうが、60年代なかばにあっては、このようなヴォーカルは白人ポップ・ステーションでは受容されにくいかったでしょう。白人ポップ・ステーションでエア・プレイを稼げなければ、ポップ・チャートでのヒットはきわめて困難、というか、ほぼ絶望です。まだ保守的な時代でした。

river deep mountain high

これだけですでにヒットの望みは絶たれているので、これ以上、あれこれいわなくてもいいかもしれませんが、サウンドもやはり、やりすぎ、行き過ぎと感じます。エゴ・トリップに入った人が、ビッグ・プロダクションに向かうのはやむをえないとは思いますが、一歩だけ「アート」に踏み込みすぎました。

もちろん、「すぐれたサウンド」ではありますが、「好かれるサウンド」かどうかは微妙なところでしょう。わたし自身は、同じ路線でも、ライチャウスのほうがバランスがいいと感じます。聴いていて楽しめます。River Deep Mountain Highは疲れます。野心的なサウンドではありますが、なんだか、自分の手で自分の胸に勲章を飾っているような手つきが音の向こうに見え隠れします。

楽曲としての魅力も薄いと感じます。バリー=グリニッチの曲の最大の美点は、スムーズな流れです。おそらく、それが当たり前の循環コードを多用した理由でしょう。とんでもないところにいかない曲の心地よさ、といったものがバリー=グリニッチのヒット連発を支えたとわたしは考えています。

phil spector ike and tina turner

ところがRiver Deep Mountain Highは、そこらじゅうに段差があって、手抜き工事の高速道路を走っているように、しばしばガクン、ガクンとのめりそうになります。

いや、それ以前に、冒頭のBフラット・スケールを一段一段上がっていくフレーズが、なんとも大仰で、おばあさんが「よっこらしょ」と階段を上っていくような重苦しさが感じられ、好きになれません。ティナ・ターナーはまだしもこの難所を無難にかわしていますが、ほかの多くのヴァージョンは、ここを聴いただけでイヤになります。

冒頭の重さは好まないものの、ヴァースはまあまあの出来です。でも、It gets deeperに入るときも、Do I love youに入るときも違和感があります。ヴァース、コーラス、ブリッジというのは、基本的には別個の独立した曲と考えていいのですが、それがうまくつながる(あるいは、うまくチェンジ・オヴ・ペースになる)かどうかは、それぞれの曲によって異なります。River Deep Mountain Highについては、わたしはどこもイヤな段差を感じます。バリー=グリニッチがこういう曲を書くのかねえ、ですよ。

さらにいえば、ブリッジはもっとダメで、かつてのスペクターなら、こんな無意味な部分はあっさり切り捨て、冗漫さのないコンパクトなシングル盤をつくったでしょう。エゴ・トリップに入っていたか、逆に、鬱状態だったかのどちらかで、判断を誤ったと思います。

カリフォルニアの地震のときでしたっけ、高速道路の桁がみな落ちて、ジグザグ模様になったのは? わたしがこのRiver Deep Mountain Highという楽曲から感じるのは、桁が落ちて通行できない高速道路のすがたです。

スペクターは、この段差を承知していながら、アレンジとプロデュースで滑らかに均せると考えていたようです。残念でした。上手の手から水が漏れたようです。事故が起きるときには、判断ミスが重なるものなのです。

spector tina and ike turner

レノン=マッカートニーが世紀のソングライター・チームになった理由は、異質な曲を接続するときに、めったに判断ミスをしなかったことです。くらべる相手が悪いとは思いますが、単純な判断ミス、遠慮、力関係、いろいろな要素が絡まって、バリー=グリニッチとフィル・スペクターの久方ぶりの再会は、スペクターの一時的引退という苦い「果実」をみのらせただけでした。

このとき、ジェフ・バリーとエリー・グリニッチはすでに離婚、二人はスペクターと感情的に対立していた、なんていう、本来なら考慮すべきではないプライヴェートな事情も、この曲がギクシャクした構造になった理由ではないかと、よけいなことまで思いました。

さすがは、一度はスペクターに引導を渡した曲、カヴァーまではたどり着けなかったので、それは次回に持ち越しとさせていただきます。

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テーマ : 60年代の輪郭(音楽)
ジャンル : 音楽

エリー・グリニッチ追悼 その15 ロネッツ“アイ・ワンダー”(I Wonder by the Ronettes)

2009-10-25

曲名
アイ・ワンダー”(I Wonder)
アーティスト
ロネッツ(The Ronettes)
収録アルバム
『ファビュラス・ロネッツ』(Presenting the Fabulous Ronettes featuring Veronica)
作曲者
ジェフ・バリー、エリー・グリニッチ、フィル・スペクター(Jeff Barry, Ellie Greenich, Phil Spector)
リリース年
1964年


取りかかったときは10曲ぐらいを予定していましたが、やってみれば、あれもある、これもあるで、とうとう15曲になりました。まだあと何曲かあるので、結局、20曲までいってしまうかもしれません。そろそろパターン化して、倦みつつあるのですが。

前回のOne Boy Too Lateも、二種類のヴァージョンがともにいい出来でしたが、今日のI Wonderも、3種類とも楽しめます。

☆ ロネッツ ☆


ロネッツ盤がやはり図抜けて強力です。なんたって、ハル・ブレインが大車輪ですからね。いまのわたしは年をとったので、晩年のバディー・リッチのブラシ・ワークに惚れ惚れしたりしますが、ロックンロールはやっぱりパワー・ドラミングです。力みなぎるハル・ブレインのプレイはすばらしいの一言。



サンダーラスなスネアの力強さもすごいものですが、このミキシングでちゃんとキックが聞こえるところに、ハル・ブレインの体技のレベルがあらわれています。ふつうのキックのパターン(1&3またはそのヴァリエーション)ではないので、キック・ペダルをめいっぱい踏み込んでいるのがはっきりと意識されます。相手が人間なら三発も喰らわせれば内臓破裂で死ぬくらいの強烈なキックです。そして、全編それで押し通すところが、まさにハル・ブレインのハル・ブレインたる所以。

最初の見せ場は八小節目、すなわちイントロの最後の小節からヴァースへの移行におけるフィルインです。これもみごとですが、それ以上にすごいのはブリッジから間奏への接続部のフィルインで、ハルが叩いたあらゆるフィルインのなかでも五本指に入ります。いや、テクニックの問題というより、ドラマティズムの側面からみごとだと云っているのです。これだけの大見得を切れる千両役者は、アメリカ大衆音楽史全体を見わたしても、ほんの一握りしかいません。

ronettes 45 is this what i get for loving you

エンディングに入る直前と、そのちょっとあとの大胆な4分の連打もたいしたものです。すぐれたアイディアと、それを十全に実現する圧倒的な腕力と脚力(早い話が「ド派手にぶちかます」ということだが!)の勝利。対角線投法だなんてクリシェには頼らず、ノーアウト二三塁で主軸を迎えて、全部ストレート、それもすべてインハイという意表をつく攻めで三球三振というところです。

クリシェは悪だとはいいませんが、世の中のあらゆることと同じように、音楽もまた、クリシェと意想外なものとが両輪になっているのであって、クリシェの強い抑え込みと、それを突き破ろうとする意思が拮抗してこそ、すぐれた作物が生まれるのです。ドラミングとはクリシェとの親和と戦いの拮抗そのものといえます。

これだけハル・ブレインが爆走すると、あとはどうでもいいようなものですが、こういうサウンドをイメージしたフィル・スペクターもすごいものですし、その実現に協力したラリー・レヴィンとジャック・ニーチーも、いつものように立派な仕事をしています。ホーン・セクションの扱いがすごく繊細でみごとなのですが、これもスペクター=ニーチー=レヴィンの三位一体の技と受け取るべきなのでしょう。

bomb the twist
おっと、これはロネッツではなかった!

☆ クリスタルズ ☆


同じくフィレーズのクリスタルズ盤も、ロネッツ盤のようなすごみはないものの、まずまず楽しめる音になっています。

クリスタルズ


なんだかUptownなどの初期のトラックを思い起こさせるギター・イントロなので、クリスタルズのベスト盤を確認したら、やはりNYのミラ・サウンドでの録音とありました。

バックビートは叩かず、装飾音に終始するドラムの扱いを含め、アレンジはクリスタルズのRudolph The Red-Nosed Reindeer(ハリウッド録音)そのままです。フィル・スペクターのクリスマス・アルバムは、Be My BabyのアレンジでFrosty the Snowmanをやっていたりするので、こちらもI Wonderが先なのかと思いましたが、録音は63年11月なのでI Wonderのほうがあとの録音、つまり、ハリウッドのサウンドをNYでコピーしたことになります。

となると、ロネッツとどちらが先なのかと気になって、ベスト盤のデータを見ましたが、こちらも63年11月の録音、ただし、場所はもちろんハリウッドのゴールド・スター、エンジニアはラリー・レヴィン、アレンジャーはジャック・ニーチーとクレジットされています。

the best of the crystals

はて? 例によってクリスタルズがLAに飛ぶのを嫌がっただけなのか、なにか思うところがあったのか、家庭の事情でNYに滞在する必要があったのか(自業自得とはいえ、スペクターを長く悩ませた古女房の問題ですな)、はたまた、音楽的な理由で、同じ曲を両方で作ってみたのか。

ジェフ・バリーとエリー・グリニッチがニューヨークにいたというだけの根拠にすぎませんが、NYでスペクターを交えて曲を書き上げ、そのままクリスタルズで録音し、とりわけいい出来でもなかったので、ハリウッドに戻ってから、またロネッツでやってみた、というような順番かもしれません。

でも、結局、どちらのヴァージョンもアメリカではシングルにされなかったのだから、愕きます(クリスタルズ盤はイギリスでヒットしたらしい)。クリスタルズはお蔵入りでもいいと思いますが、ロネッツはほぼ完璧な出来です。

Walking in the Rainだなんて重苦しい陰鬱な曲をリリースしたのも理解できませんが、I Wonderにように明るく華やかなサウンドの盤をリリースしなかったのも同じように理解不能です。ここらにスペクターの固着があるような気がします。だれか音楽がわかる精神科医(ドクター・キャプラン?)が分析しないものでしょうか。

危うく書き忘れそうになったことを一点。間奏のストリングスのラインはチャーミングです。アレンジャーはアーノルド・ゴーランド。

☆ バタフライズ ☆


バリー=グリニッチとしては、スペクターがI Wonderをシングルとしてリリースすれば満足だったのでしょうが、どういうわけか、クリスタルズ盤もロネッツ盤もリリースされなかったわけで、そこでべつの道をということになったのかもしれません。

バタフライズ


スペクターの大きなつくりにくらべれば、家内工業のようなサウンドで、デモかと思っちゃいますが、これはこれで楽しく聴けます。なんだかララ・ブルックスみたいな声で、ひょっとしてクリスタルズのバイトかよ、とあらぬ疑いをかけてしまいました!

わたしはララ・ブルックスの声が好きなのですが、はじめて聴いたときから、バタフライズを贔屓にしてきたのは、そのせいかもしれません。

レッド・バード・ストーリー

Red Bird Story
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ロネッツもクリスタルズも、いまはベスト盤が市場から消え、プレミアがついているので、アマゾン・リンクはオミットした。ただ音を聴きたいだけなら、遠からず新しいベスト盤がリリースされるだろう。近年のベスト盤、それもLPならともなく、CDのような消耗品にとんでもない金を払うことはない。たんなる端境期にすぎないのだから、しばらく待てばふつうの値段で買えるようになる。

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