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エルヴィス映画見直し There Ain't Nothing Like A Song(映画『スピードウェイ』より その6)
2010-02-24
- 曲名
- There Ain't Nothing Like A Song(ゼア・エイント・ナッシング・ライク・ア・ソング)
- アーティスト
- エルヴィス・プレスリー&ナンシー・シナトラ(Elvis Presley with Nancy Sinatra)
- 収録アルバム
- 『スピードウェイ』サウンドトラック(Speedway OST)
- 作曲者
- メル・グレイザー、スティーヴン・シュラックス(Mel Glazer, Stephen Schlaks)
- リリース年
- 1968年

今回で『スピードウェイ』はおしまいです。エルヴィス映画が末期に退廃していったことが、この映画にはみごとに反映されていて、なによりもエルヴィスが一握りの曲しか歌わないことにそれが如実にあらわれています。
とはいえ、量の減少は楽曲の質の低下を伴っているかというと、そうは思えません。いや、1968年はエルヴィスの「下げ止まり」の年で、1、2年前よりいい状態になっただけなのかもしれませんが、どうであれ、『スピードウェイ』の挿入曲を聴くかぎり、バラッドもけっこうですし、ストレート・ロッカーも、以前よりずっとドラム・ビートが強くなり、いずれも楽しめます。問題は、映画のほうにあり、第一の不満は、歌うシーンが少なすぎるという点です。
つまるところ、時代のありようと、エルヴィス自身とその映画のありようが大きくズレてしまったというだけなのでしょう。映画のつくりはロウ・ティーン向けなのに、エルヴィス自身は、もうロウ・ティーンのアイドルというには年をとりすぎたということもいえます。
パーカー大佐とエルヴィスは、ステージへ、ライヴ・パフォーマンスへ復帰するというドラスティックな変化を用意していたし、『スピードウェイ』の音楽も、『NBCカムバック・スペシャル』と同等の力強いサウンドへと変化しているのに、映画のつくりはなにも変化がないところを見ると、もう手の打ちようがないと、さじを投げたように見えます。
☆ There Ain't Nothing Like A Song ☆
通俗映画の常道にしたがって、ナンシー・シナトラ査察官は、結局、エルヴィスの側につき、レースものの常道にしたがって、大破した車の徹夜の修理というルーティンがあり、当然、最後はレースに勝って大団円となります。もちろん、エルヴィス映画だから、大団円には歌がついています。
There Ain't Nothing Like A Song
アン=マーグレットとのデュエットのような妙味のないところが惜しいとは思いますが、純粋にエルヴィスの曲としていえば、おおいにけっこうなもので、失礼ながら、「俳優としてはともかく、シンガーとしてはまだ大丈夫じゃないか」といいたくなります。
そして、それは「NBCカムバック・スペシャル」と呼ばれるようになる、NBCのテレビ・ショウで立証され、晩年の隆盛がスタートします。「ゼア・エイント・ナシング・ライク・ア・ソング」は、ハル・ブレインの強烈な「あおり」からして、すでに「NBCカムバック・スペシャル」のサウンドと同質のものであり、エルヴィスもようやく底を脱し、これからは上り坂だ、と感じさせるに十分な出来になっています。
結果的に、『スピードウェイ』は、エルヴィス映画はもう終わりだということをわれわれに納得させると同時に、シンガーとしてのエルヴィスはまだおおいにやれるはずだ、ということも感じさせるものになりました。ここから終盤のキャリアがはじまったといえるでしょう。
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エルヴィス映画見直し Who Are You (Who Am I) by Elvis Presley(映画『スピードウェイ』より その5)
2010-02-14
- 曲名
- Who Are You (Who Am I)(フー・アー・ユー(フー・アム・アイ))
- アーティスト
- エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
- 収録アルバム
- 『スピードウェイ』サウンドトラック(Speedway OST)
- 作曲者
- メル・グレイザー、スティーヴン・シュラックス(Mel Glazer, Stephen Schlaks)
- リリース年
- 1968年

この『スピードウェイ』シリーズの2回目で、二種類の録音メンバーを列挙しました。そのうちのいっぽうに名前があがっている人たちについて、ハリウッドかナッシュヴィルかの区別をつけましたが、なかにはどちらかわからない人もいました。
それが、たまたま、友人に教えてあげようと、Add More Musicの50ギターズ・ページを見ていて、このプロジェクトには、タイニー・ティンブレルのクレジットもあることを知りました。50ギターズはもちろんハリウッドのプロジェクトなので、タイニー・ティンブレルもハリウッドのギター・プレイヤーと判明しました(サンクス>センセ)。これで『スピードウェイ』のクレジットにあるプレイヤーのうち、8人はAFMローカル47所属のハリウッド勢という勘定になりました。
☆ Your Time Hasn't Come Yet, Baby ☆
さて、今日は『スピードウェイ』収録のバラッドを二曲いきます。
エルヴィスは、クラブでホットドッグを盗んでいる女の子(というか学齢前の幼児)を見つけ、代金を払ってやり、彼女のあとを追って駐車場に行きます。すると、ボロのステーション・ワゴンで暮らしている父と少女たち(みな幼児!)がいて、彼女は妹たちのために、クラブでホットドッグを盗んでいたことが判明します。
それから数日後、エルヴィスは新しいステーション・ワゴンに、いろいろな贈り物を載せて、ふたたびこの駐車場にやってきて、貧しい一家に車ごとプレゼントします。その場面で、長女が、あなたと結婚したい、といい、それに答えるかたちで、「まだきみの時はやってきていないんだよ、もっとたくさんの夢を見なければね」と歌うのが、このYour Time Hasn't Come Yet, Babyです。
とくに大騒ぎしなければならないほどのものでもありませんが、嫌味のない、あっさりした味わいは買えます。エルヴィスの映画挿入曲のバラッドは、こういうさっぱりした味のものが多くてけっこうだと思います。

☆ Who Are You (Who Am I) ☆
ナンシー・シナトラ査察官のおかげで、エルヴィスとマネージャーは税務署に呼び出され、マネージャーが馬に注ぎ込んだせいで、とてつもない額の税金を滞納していたことが判明します。このマネージャーがどこにも取り柄のない人間で、幼馴染だというだけの理由で、エルヴィスがこの友人を見捨てないところが、観客には納得がいかず、このあたりもシナリオが弱いと感じます。
いや、映画の出来はさておき、音楽のほうです。この税務署の待合室のシーンで流れるHe's Your Uncle Not Your Dadは、圧倒的なマーチング・ドラム(ハル・ブレインだろう)はおおいに魅力的ですが、楽曲としてはどうということはなく、ミュージカル映画によくある、場面に合わせたフィラーにすぎません。
滞納金の納付のために、一度は貧しい一家に与えたステーション・ワゴンを差し押さえられてしまい、エルヴィスは怒り狂って、ナンシー・シナトラ査察官の止宿するホテルに出かけていき、そこまでやるか、おまえは、と怒りをぶちまけるのですが、それが口説きに化けてしまい、そこで歌うのがWho Are You (Who Am I)というバラッド。
いやあ、なかなかけっこうな曲、けっこうなヴォーカル・レンディション、けっこうなサウンドですな。バラッドは斯くありたいものです。軽く、あっさり、さっぱり、さわやかに、です。よけいなエモーションには尻がむずむずします。シンガーの感情移入は最低限にしないと、リスナーは感情移入できなくなり、ひとりで勝手にやってろ、バーカ、という気分になってしまいます。その気になっているシンガーを聞くほど馬鹿馬鹿しいことはありません。さすがはエルヴィス、バラッドの歌い方は心得たものです。
イントロでフィーチャーされているギターが気になります。ハリウッドでスパニッシュ・ギターが必要になったら、九分九厘トミー・テデスコが呼ばれるものと決まっているのですが、この曲はどうでしょうか。
ほかの材料を無視して、純粋にギターのサウンドとピッキングを聴くなら、一小節でたちどころに、「ああ、またトミーだ」と思います。いや、そうとはかぎらないか、と思うのは、聴き終わって、ほかの材料を検討する段階にいたってからのことです。
ドラムがハル・ブレインに思えない、ということが否定材料です。サイドスティックのプレイは判断しにくいのですが、ほんとうにうまい人というのは、プレイがどうこういうまえに、サイドスティックのときのリムの鳴り方自体がすばらしくきれいで、惚れ惚れするサウンドをつくるものです。ハル・ブレインやジム・ゴードンは、サイドスティックできれいな澄んだサウンドをつくります。
しかし、この曲のサイドスティック・サウンドは、にごっているし、速いパッセージで微妙に遅れています。ハル・ブレインがこういうもたつき方をするだろうかと、疑問を感じます。
また、ギターのプレイ自体も、みごとではあるものの、この程度ならナッシュヴィルのプレイヤーにもハンドル可能で、トミー・テデスコ以外にこんなことのできる人がいるとは思えない、というほどの圧倒的なプレイではないということも、トミーと断定するのをためらわせる材料のひとつです。
しかし、ドラムに対する疑問を振り払うなら、やはりトミー・テデスコのプレイといっていいでしょう。なかなか気持のよいプレイです。
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エルヴィス映画見直し Your Groovy Self by Nancy Sinatra(映画『スピードウェイ』より その4)
2010-02-11
- 曲名
- ユア・グルーヴィー・セルフ(Your Groovy self)
- アーティスト
- ナンシー・シナトラ(Nancy Sinatra)
- 収録アルバム
- 『スピードウェイ』サウンドトラック(Speedway OST)
- 作曲者
- リー・ヘイズルウッド(Lee Hazlewood)
- リリース年
- 1968年

『スピードウェイ』でエルヴィス・プレスリーの相手をつとめるのはナンシー・シナトラです。それはけっこうなのですが、ナンシーが税務査察官で、エルヴィスの状況を内偵しにくる、という設定がどうも首肯しかねます。女査察官と取り調べられる男がやがて心を通わせるというヒットした邦画がありましたが、あれは『スピードウェイ』の翻案なのかもしれません!
『スピードウェイ』のリメイクである(かどうかはなんともいえないが!)『マルサの女』を見たときも、エリオット・ネスは禁酒法時代に生き、アル・カポネを相手にしたからヒーローの資格を得たのであって、現代日本の税務査察官を正義の味方扱いするのはいくらなんでも無理でしょう、と思いました。あれ一作で伊丹十三とはきれいさっぱり縁が切れ、二度とあの監督の映画を見ようとは思いませんでした。
では、そのオリジナルである(かどうかはなんともいえないが)『スピードウェイ』の女査察官はどうかといえば、これもやっぱり、見ていて楽しくないヒロインで、こんな世にもくだらない設定で映画を製作した映画スタジオが存在したことに呆れ果ててしまいました。
決定権をもつ人間の9割がターン・ダウンに票を投じそうな、どうしようもなくくだらない企画なのに、現実に製作されるというありえない事態に立ち至ったその理由に、ふと思い当たりました。
主演、共演、その他スターのみならず、関係者のほとんど全員が税務当局にひどい目にあわされた経験があった、理由はこれしか考えられません! 関係者はみな査察、差し押さえに強いリアリティーを感じたのですが、観客の大部分は査察などには無関心であり、そのはざまに落ち込んで、この映画は意味不明のものになったのでしょう。
☆ ナンシー・シナトラのユア・グルーヴィー・セルフ ☆
設定、プロットには見るべきものはないので、そういうことは忘れて音楽に耳を傾け、投資した時間に見合うものを回収しましょう。
前回もふれたクラブは、MCが客を指名して芸をさせるルールになっているそうで、現実にあったらあまり行きたくない店です。自分で芸をするのもゴメンだし、他人の素人芸にも耐えられないでしょう。
しかし、これは映画なので、エルヴィス・プレスリーのつぎに指名されるのはナンシー・シナトラです。たとえ1曲ずつでも、この二人のパフォーマンスに金を払ったら、ちょっとしたテーブル・チャージになったでしょう!
ナンシー・シナトラ ユア・グルーヴィー・セルフ
これはまったく疑問のないトラックで、ドラムは100パーセントの確率でハル・ブレインです。タムタムで4分3連を叩くときに、第1打のアクセントを極端に弱くし、クレシェンドであとのほうの拍に非常に強いアクセントをつけていくのは、ハル・ブレイン独特のイントネーションです。
スタジオの鳴り自体が、エルヴィスのトラックとは異なっているように感じます。ナンシー・シナトラの曲だけは、このサウンドトラックの他のトラックとは関係なく、彼女のホームグラウンド(ユナイティッド・ウェスタンだろう)で録音されたのではないでしょうか。

さらに憶測をたくましくすれば、映画『スピードウェイ』のために書かれたものですらなく、リー・ヘイズルウッドがつねに用意していたであろう、ナンシーのつぎのアルバムの曲のひとつを流用しただけではないでしょうか。いつものナンシーのスタッフによる、いつもの仕事というあたり。
どうであれ、ハル・ブレインの豪快なドラミングが魅力的で、好きなトラックです。
☆ スコア(ないしは現実音)2種 ☆
このクラブのシーンでは、エルヴィスやナンシーが歌っていないときには、ハウスバンドがプレイしているという設定で、数種の曲が流れます。最初に流れる曲は、すでに前回、ご紹介したので、今回は2曲目と3曲目をサンプルにしました。つながって出てくるので、切り分けずに、1トラックのままにしてあります。
スコア2および3
曲自体はあれこれいうほどではありませんが(しいていえば3のほうが面白い)、うまい人たちが軽く流した心地よいグルーヴがあります。ブラシもいいプレイです。
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エルヴィス映画見直し Let Yourself Go by Elvis Presley(映画『スピードウェイ』より その3)
2010-02-07
- 曲名
- レット・ユアセルフ・ゴー(Let Yourself Go)
- アーティスト
- エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)
- 収録アルバム
- 『スピードウェイ』サウンドトラック(Speedway OST)
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- リリース年
- 1968年

『スピードウェイ』はエルヴィスの歌うシーンが少なめなだけでなく、スコアもほとんどありません。依然として「音楽映画」と呼んで差し支えないとは思うのですが、『アカプルコの海』のような、ノン・ストップのミュージック・ヴィデオ状態ではありません。
しかし、1968年という録音・撮影時期のしからしむるところでしょうが、前回のテーマ曲に代表されるように、ドラム・ビートが強調された曲が多く、その点はおおいに楽しめます。
☆ Let Yourself Go ☆
タイトルのあとは長ったらしいレース・シークェンスがあり、あとから振り返れば、ここからしてすでに音楽が少なめであることを宣言しているように感じます。やはり、タイトルからそれほど時間がたたない段階で、二の矢を放ってくれないとエルヴィス映画らしい雰囲気になりません。エンジン・ノイズはたっぷりで、それを音楽のかわりに聴いてくれということでしょうかね。

00:16ごろにクラブのシーンになり、ハウスバンドの短い演奏があります。もちろん、実際に音を出しているプレイヤーと、画面上のプレイヤーは無関係です(画面のドラマーはいちおうそれらしくしようと努力しているので、まったくのド素人ではない)。コンボのプレイですが、この映画にはオーケストラのスコアはほとんどなく、エルヴィスが歌わないところでも、コンボの音が流れるだけです。わたしの耳には、この16分すぎのスコアでストゥールに坐ったのはハル・ブレインに聞こえます。
つづいて、MCの指名でエルヴィスがステージに上がって歌うのが、Let Your Self Goです。
エルヴィス・プレスリー レット・ユアセルフ・ゴー
3コードのシンプルな構造で、楽曲としてどうこういうほどのものではありませんが、そういう曲だからして当然、どうやるかが問題になります。この曲もまたドラムが大活躍で、ミキシングで派手なパラディドルのレベルを下げたりして(ものすごく露骨なフェイダー操作!)、エルヴィスが食われないように舞台裏は苦労しています。
となると、またしても、ストゥールに坐ったのはだれかという問題が惹起します。しかし、これもなんともいいがたいところです。ハル・ブレインは華やかさ、明るさが身上で、この曲のドラム・ビートも華やかなのですが、バディー・ハーマンだって、その気になれば、こういうプレイができただろうという気もします。
スネアの響きは、Speedwayと同じもののように感じられます。といっても、Speedwayのほうを確定できなければ意味がないのですが! タムタムはハル・ブレイン風、でも、フロア・タムは、ハルがこういうプレイをした例は記憶にありません。どちらかといえば、バディー・ハーマン風。なんとも困ったもの!
曲数は少ないので、あわてずにいくことにして、今日はスコア1、挿入曲1で切り上げます。
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